イギリスやアイルランドに行って、「思ってたのと違うんだな」のひとつに自国に対する考え方がある。
私の中ではざっくりと「イギリスとアイルランド」だったが、実際にはもっと細かなアイデンティティが存在している。
さて北アイルランド出身の美容師さんは北アイルランドとアイルランドに何個か自分の店舗を持っている人気の美容師さんだった。
本人はセカンドシートをサイドに折りたためる業務車両化したランドローバーディフェンダーを乗り回すなかなかマッチョなお姉さん。
ちなみに家事が全くできない彼女のご主人様は「レストラン出せるんじゃないの?」くらい味も盛り付けも完璧な料理がだせる穏やか人間だった。
男勝りな彼女と地面に足のついていないふわふわ変人の私は妙に気が合った。
彼女は自分のお店の様子を見るために北アイルランドへちょくちょく帰っていた。
5時間ほどの運転をノンストップで一人で運転すると眠くなってくるからと、旅のお供に一緒にきなさいと言われたのでついていくことにした。
彼女はクイーンの大ファンで大熱唱しながら運転する。
ランドローバーにはカセットしかなく、クイーンの10曲くらいを延々聞きながら走った。
おかげで今でもクイーンを聞くと、彼女が拳を振りながら「We Will Rock You」を歌っている姿を思い出す。
延々と続く田舎道をひたすら北上する
走っている途中で驚いたことの一つは踏切。
田舎道の踏切だったが、踏切の側に1件の家がある。
そこから人が出てきて車を踏切前で止める。
そして手動で踏切を閉じる。
停められた車たちはみんなエンジンを切り外に出て話したりし始める。
私:どういうこと??
美容師:あと何分かしたら電車がくるのよ
私:手動?
美容師:滅多に電車来ないもん
今でもそのシステムなのだろうか・・・そうだったらいいのになぁ。
10分以上経ってから電車が通り過ぎた。
みんなワラワラと車に戻り、踏切守りの人がまた踏切を開けてくれたら出発だ。
そうして走っていくと北アイルランドへ入っていく。
今では何の検問もないがそうなったことはそれほど昔のことではない。
建物としての名残もあるし、人々の記憶にも残っている。
私は世界史に詳しくないが、名残を見たりそこに生活する人たちとの会話の中で日本にいたときは関することもなかった歴史を垣間見て「国民意識とは」とか「国境とは」とか「差別は」などと考え込んでしまう。
北アイルランドへ入るときの検問所
今は検問なしで行き来できる
無事に彼女の実家に到着した。
ご両親は二人揃って気のいい人たちでお父さんはお酒が大好き。
お母さんには「適当に切り上げてしまっていいからね」と言われたが、結局陽気なお父さんの話を延々聞きながら夜中までお酒の相手をしてしまった。
次の日は北アイルランドの都市ベルファストへ。
レンガ作りが印象的な素敵な街だった。
広場に群がる人たちがいる。
私:何してるんだろう?
彼女:馬の売り買いしてるのよ
何とも北アイルランドらしい・・・のかわからないが、「こんな市街地で馬の取引が行われているとは」と興味深かった。
ベルファストで見かけた音楽隊
彼女の家は郊外にある。
小さな集落の周りは草原と森だ。
朝と夕方は家族で散歩に出かける。
「今までで一番美しい景色はここだ」とその時思ったが、今でもあの場所ほど美しさに感動した景色にまだ出会っていない。
辺り一面の草の穂に光が反射して金色にひかり、周りを縁取る森が影を落とし、樹木の隙間から見え隠れする古い蔦を這わせた石作りの豪邸がその景色に重みを加えている。
「写るんです」では写らない景色だった・・・うまいこと言ったか?
と、北アイルランドは私にとって良い思い出の場所。
次回はKerryに戻って乗馬にまつわる話を。